MIGの跡取り娘としての立場を自覚したリズは、アステリア・エンタープライズ社の専務、セス・ブライトに付いて、MIGの事業を学ぶようになります。
とはいえ、百戦錬磨のベテランに比べたら、ひよっこみたいなもので、大事な仕事も任せてもらえません。
同じ年頃の女性が生き生きと働く姿を横に見ながら、リズは父の隣でニコニコ笑うだけの飾り人形みたいな自分に焦りと虚しさを感じるようになります。
以下は、セスの専務室で仕事を学ぶリズの会話。
「それは理解できます」
「どこに、どんな人が配属されているか、それを見れば組織のことは一目瞭然です。経営者の器も知れます。お嬢さんもその辺りを学べば、将来に役立つのではないでしょうか」
「でも、できれば一つの職務を全うしたいと思っています。漠然と全体を見渡すのではなく、営業でも、在庫管理でも、一つのことに打ち込んで、仕事のノウハウを身に着けたい」
「気持ちは分かりますが、立場上、それは無理でしょう。お嬢さんにそのつもりはなくても、周りは気を遣います。皆と一緒に机を並べなくても、学べる仕事は他にもありますよ」
「それでも父が本気で私に望んでいると思いません。私にも何かの役割を期待するなら、接待ばかりに使ったりしないでしょう。夕べも、その前も、私に求めることといえば、父の隣でにっこり笑って場を和ませるようなことばかり。私はMIGのキャンペーンガールではありません」
「社長の隣でにっこり笑っても、相手を不快にさせるだけの人もおりますよ。この世は決してコネや損得だけで動いているわけではありません。『やり手』と評判の経営者でも実際に会って話してみたら、週刊誌の提灯記事と大きくかけ離れていることもありますし、世間であまり注目されない子会社が驚くべき技術力を持っていたりします。資本やコネだけちらつかせても、本当に一流と呼ばれる人たちは見向きもしませんし、本当に得るべきところから信用を得られなければ大事は成せません。そして、その善し悪しを見抜く力は、マニュアルを読むだけでは決して身に付かないものです。『社長の隣でにっこり笑って』と仰るけども、笑いながらでも学ぶべき事はいっぱいありますよ」
海洋情報ネットワーク 海洋社会の知的基盤を強化するの前述のパート
本作に登場するヒロインのリズは、24歳から27歳。
女性が一番変化する、あるいは社会的な影響を受けやすい年齢に設定しています。
社長令嬢でもあるリズにとって一番の責務は、父の名誉を保ち、企業イメージを高めること。
令嬢だからといって、贅沢や我が侭は許されないし、何処へいっても、「アル・マクダエルの娘」という役目が付き纏います。
そのように定められた人生を、どのように自分らしく生きるかが、本作の第二のテーマでもあります。
世の中には「自分の好きなように生きるのが一番大事」という声もありますが、周囲の幸福の為に、社会的務めを果たすことも同じくらいに大事です。
果たしてそれは不幸な生き方でしょうか。
皇族や世界的セレブのように、社会の期待する役目を果たしながらも、自分の生き甲斐を追求し、時に人間的な脆さを見せながらも、世間の尊敬と愛情を一身に集めている方も少なくありません。
そうした姿勢は皇族やセレブに限らず、サラリーマンや主婦や、何かしら役目を負った市井の人々も同じではないでしょうか。
周りの女性に引け目や劣等感を感じていたリズも、やがて自分の定めを受け入れ、自身に与えられた力を上手に生かす道を見出します。
そのきっかけとなったのが、恋人の理解と真心であるのは言うまでもありません。
*
社長=お父さんのアル・マクダエルは賢哲な企業家であると同時に、恋愛指南のプロでもあります。
彼に距離を置かれて、戸惑う娘に、お父さんが恋の道をレクチャーするエピソードはこちら。