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水中無人機の訓練と海洋の技術 ~水中プールとオペレーター

あらすじ
海底鉱物資源の採鉱システムの接続ミッションに向けて、ヴァルターは実験用プールを使った水中無人機の調整に立ち会う。実際の水中無人機のオペレーションの様子を動画と写真で紹介。
目次

【科学コラム】 水中無人機と海洋の技術

水中技術も進歩したとはいえ、人間がそうそう潜って、海底地形を確かめたり、機械の調子を調整するようなことはできません。

人間にとって、深海というのは、到底生存不可能な世界です。

むしろ宇宙空間の方が長く滞在できるのが不思議なくらいです。

そこで重視されるのが水中無人機。

映画『タイタニック』の沈没船調査でも活躍したように、人間の代わりに、水深数百メートルから数千メートルの水中に潜り、海底火山の噴火口を撮影したり、石油リグの設備を調整したり、深海底で生物を採取したり、様々な活動を行います。

しかしながら、水中は電波が届かず、音波で何もかも遠隔操作できるわけではありません。大量の画像データを送信したり、ハロゲンライトやマニピュレーターを操作するには、高性能な通信ケーブルが必要になります。

一般に、私達がイメージする水中無人機は、有索(ROV)であり、海上の支援船から巨大な設備を使って直径数センチに及ぶ複合ケーブルを操作します。

一方、ケーブルの無い自律型の開発も盛んに行われており、こちらは動作に必要な電源を機体に搭載し、プログラムされたように水中で活動します。

一見、ケーブルの無い方が便利に感じますが、自律型の場合、搭載できる電源も、リアルタイムで送受信できるデータ量も限られています。また何かのトラブルで行方不明になれば、回収も絶望的です。浅瀬ならともかく、深海での調査には、まだまだ課題も多いです。

本作では、採鉱システムの揚鉱管の接続に水中無人機が大活躍します。

オペレーター達はみな若く、海上プラットフォームの暮らしを楽しんでいます。

開発、操作、維持・管理、これからますます需要の高まる分野です。

本作でも指摘していますが、いずれ宇宙開発の技術が深海にも応用され、優秀な自律型ロボットが深海調査や水中作業に大活躍すると願っています。

【小説】 実験用プールで水中無人機の訓練

海底鉱物資源の採鉱システムの接続ミッションでは、水深3000メートル下で、高電圧リアクター、揚鉱管、集鉱機を接続する水中作業が必要になる。

接続ミッションの予定日が迫る中、ヴァルターは潜水艇のパイロットとして、無人機のオペレーターらを補佐する為に、水中無人機の調整に立ち会う。

そこに当日彼のパートナーを務める大学生のエイドリアンが現れ、幼馴染みのリズを横取りされた、鬱屈した気持ちを打ち明ける。

このパートは『第二章・採鉱プラットフォーム』の抜粋です。作品詳細はこちら

一行は第一埠頭の専用バースで連絡船を下りると、「リージェント通り」と呼ばれる小綺麗な並木道を歩き、本社ビルに到着した。ブルーのガラス製カーテンウォールが美しい七階建ての洒落た建物だ。そして、ビルの前庭にもシロイルカの原寸大オブジェがどーんと置かれているが、鼻先がぺたんと潰れて、どう見ても「カモノハシ」だ。

(ずいぶん遊び心のある社長だ)と感嘆しながら裏手にある整備工場に足を向けると、小柄な老紳士がニコニコしながら迎えてくれた。

イリヤ・ノボロスキ社長だ。

頭髪はほぼ真っ白で、少し目が悪いのか、青灰色の瞳が濁ったように見えるが、笑顔は快活で、真夏のモローズ爺さんロシアのサンタクロースみたいに朗々としている。社員とその家族を説得し、五百名からなる移民団を組織して、会社ごと引っ越すような豪傑にはとても見えない。

「夕べ、マクダエル社長から実験プールを使わせてくれないかと電話があってねぇ。あの人に頼まれたら、夜中でも整備工場を開けないわけにいかないよ、はははは」

ノボロスキ社長は、自分の福の神を称えるように笑った。 それから、社長は颯爽とした足取りで工場を横切ると、隣接する屋内実験プールに案内した。プールの大きさは二〇メートル四方、水深一・五メートルから七メートルの深さに分かれ、人工の波や水流を作り出すことができる。

ノボロスキ社長自身も水中工学の知識を持ち合わせ、エンジニアと意見を交わしたり、実験を見学することもあるらしい。今日もプラットフォームから運び込まれた四台の水中無人機がずらりとプールサイドに並ぶと、まるで我が子に再会したように目を細め、「トリアロにクアトロ、ヴォージャにルサルカか。これもいいロボットだ。深海でもよく働くだろう」と嬉しそうに機体を撫でた。

「プールは夕方まで好きに使ってくれていい。採鉱システムの成功は我が社の業績でもあるからね。十月十五日の接続ミッションは見事にやり遂げて、当社の水中機器をおおいに宣伝してもらいたい」

ノボロスキ社長は朗笑しながらオフィスに戻っていった。

それと入れ替わるようにフーリエも実験プールに顔を出し、

「急な呼び出しで悪かったな。だが、来週から別の製作会社が実験に入るから、今日しかチャンスがなかったんだよ」

と慌ただしく準備を始めた。どうやら実験プールも他社に貸し出して、施設維持費に充てているらしい。

「こっちこそ助かったよ。事前に水中作業が経験できるのは有り難い。だが、なぜマクダエル理事長が?」

「オレも詳しくは知らん、だが、ノボロスキ社長に直々に要請があったところを見ると、オペレーターのコンディションを考えてのことだろう。何にせよ、水中での動作を確認する最後のチャンスだ。出来る限り数をこなそう」

早速、ノエ・ラルーシュと彼の後輩にあたるマルセルが無人機をセットアップし、ヴァルターも彼らのする様を横で見ながら、機能や構造を頭に叩き込んでいった。

接続ミッションに用いる主力の水中無人機は四台。いずれも光複合ケーブルを備えた有索タイプで、タワーデリックのオペレーションルームから遠隔操作を行う。

プロテウスの船体前面に搭載する小型の《クアトロ》と、強力なマニピュレータを有する大型の《トリアロ》。

主に通信面と照明で水中作業を補佐し、細かな機械操作も行う双子の《ルサルカ》と《ヴォージャ》だ。

《クアトロ》は、縦横四〇センチの有索無人機で、二本のマニピュレータを用いたハンドリング・システムと、深海作業に適した強力な

LEDライト、高性能水中カメラを備えている。接続ミッションではプロテウスからランチし、細かな機械操作を行う。

《トリアロ》は、幅八〇センチ、長さ一〇〇センチの大型有索無人機で、四台の中で一番馬力があるが、接続ミッションでは《クアトロ》がメインの接続作業を行う為、当日は洋上で待機だ。

《ルサルカ》と《ヴォージャ》は、小回りの利く作業用ロボットで、水中の機械操作はもちろん、モニタリングや通信中継の機能も持ち合わせる。接続ミッションでは、ノエ・ラルーシュが担当する《ルサルカ》が投入され、照明や水中測位においてプロテウスと《クアトロ》を補佐する。

フーリエは、破砕機や集鉱機、水中ポンプに用いられているオスメス式の円筒コネクターやダイヤル式スイッチと同種の部品をテスト用の金属ボックスに取り付けると、《トリアロ》を使って水深七メートルのプール底に沈設した。

続いて、ノエ、マルセル、他二人のオペレーターが自身の担当する小型無人機《ルサルカ》《ヴォージャ》を水中に降下してテストを開始する。

ヴァルターは《クアトロ》のコンソールが置かれたデスクに着くと、フーリエの合図で潜水を開始した。《クアトロ》は親指大のケーブルに繋がれ、小さなスラスタを回転させながら、車エビのように水中をゆっくり進む。

《クアトロ》のコンソールは、キーボードとタッチパッド、二つのアームコントローラーが備わった幅三〇センチほどのウルトラブック型だ。着脱可能なディスプレイも備わっているが、プロテウスでは十三インチから十五インチのモニターを三台並べ、船体の水中カメラ映像と見比べながら作業することになる。

今回は演習ということで十五インチのPC用液晶モニターを使っているが、見映えは専用モニターとほとんど変わらない。

《クアトロ》のアームコントローラーは三つの関節を持つ長さ三〇センチほどのスティック状で、先端にグリッパの開閉を調節する小さなボタンと関節部を回転操作するトラックボールが備わっている。

アームコントローラーの動きはそのままマニピュレータに反映されるが、深海では水流や水圧などの影響を受けて、空中で動作するようにはいかない。また海中ではケーブルが揺らいだり、堆積物が舞い上がって視界が濁ったり、陸上とはまったく環境が異なるため、迅速かつ正確に操作するには熟練の技術が必要だ。

ヴァルターも海洋技術センターではこうした無人機の操作にも長けていたが、《クアトロ》のアームコントローラーには独特の癖があり、マニピュレータとの一体感がなかなか得られない。格納庫でもずいぶん練習したが、不測の事態に臨機応変に対処できるか、いまいち自信がない。

「ちょっと苦心してるね」

オペレーターの中では一番若い二十八歳のシルヴェステルがヴァルターに声をかけた。

「揚鉱管と集鉱機の接続は、管と管が接合すればコネクターが自動的に締まるけど、水中ポンプのリアクターはケーブルのつなぎ替えと何種類かのスイッチ操作があるから、ちょっと手こずるかもしれない。でも、深海でサンプリングの経験があるなら何とかなるよ。こっちはプラグを差して、ダイヤルを回すだけだからね。もう少しアームコントローラーの感度を下げてみる? あまり感度が良すぎると、ちょっとした動きにも反応して、マニピュレータの手先がかえって不安定になるからね」

マルセルは《クアトロ》のコンソールにラップトップPCを接続すると、ハンドリングシステムの管理画面を開き、いくつかの数値を変更した。

もう一度、テスト用金属ボックスに取り付けられたプラグの着脱操作をしてみると、なるほど、動きが微妙に遅延する一方で、コントロールしやすくなった。

その様を横で見ながら「十分やれるじゃないか」とフーリエが言う。

「機械操作については、ほとんど心配ないだろう。むしろ《クアトロ》のケーブルを巻き戻してプロテウスのランチャーに収納する方が難儀かもしれないぞ。レビンソンも一度だけトラブルに見舞われた。ウィンチが上手く動作しなくて、《クアトロ》が水中で宙づりになったんだ。何度やり直してもランチャーに収納できないので、最後は船体のマニピュレータで把持しながら浮上したよ。まるでカバン持ちみたいに」

「なるほど」

「今度のミッションは『接続』が全てだ。操作が終わればすぐに浮上するから、深海での滞在時間は一時間もかからない。何時間もかけて深海のカルデラ底をぐるぐる探し回るより、よっぽど楽だろ」

「それはそうだ」

「まあ、そうしゃちほこ張るな。ミッションには《ルサルカ》も補佐とモニタリングのために降下する。機械操作に行き詰まれば《トリアロ》を投入すればいいだけの話だ。お前、案外、小心だな。それとも石橋を叩いて渡るタイプか」

「確証のないことは口にしたくないだけだ」

「生真面目だな。お前一人で潜航するわけじゃなし、こいつらの腕を見ろよ。いざとなれば、イルカを引き連れて救助に来てくれる」
フーリエが笑いながら再び機械の調整を始めた時、背後のスチールドアがガタリと開いた。エイドリアンだ。

【リファレンス】 水中無人機のオペレーションについて

企業や研究所の実験用プールには、深さ数メートルの規模も少なくありません。
他にも流水や波など、様々な水の環境を作り出す高度な機能を有する設備もあります。

こちらは石油会社による無人機のテストの模様。水中の現場を大水深の実験用プールに忠実に再現し、無人機の性能を確認します。

潜水艇の水中作業 ~オレでも海底でマドレーヌが焼ける~

こちらは水中無人機の実習の模様を収録したビデオ。海中降下やオペレーションを実地で学びます。

いくつものモニターを使って、無人機の遠隔操作。
水中無人機

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