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住民無視の再建計画 ~素人の意見は無駄なのか?

海と恋の物語
壊滅した故郷の再建案をめぐり、意見が真っ二つに割れる中、臨海都市計画を手掛けた建築家フランシス・メイヤーが干拓地の視察を兼ねて講演会を催す。ヴァルターとヤンはメイヤーの真意を探る為に講演会に参加するが、メイヤーの言葉に住民への思いやりは微塵も感じなかった。聞こえのいい謳い文句で開発をアピールする建築家に対し、主人公が「本当に住民を思いやる気持ちがあるのか」と反論する。リファレンスとして、オランダの建築と未来のプロジェクトについて動画で紹介。コラム【素人の意見は無駄なのか】と併せて。
目次

【コラム】 素人の意見は無駄なのか?

SNSなどで、その分野の専門家とされる人に一般人がエクスキューズすると、「素人のくせに」みたいなレスポンスが返ってくることがありますが、いつもいつも専門家が正しいわけではないし、専門家以外は物申すな、ということになれば、この世はファシストだらけになってしまいますね。

もちろん、素人がトンチンカンな質問をして専門家を苛つかせる場面は、どこの分野でも日常風景であり、それが仕事と化している部署もありますが、基本的に、素人にも分かりやすく説明するのが専門家の職務だと思います。

医療はその代表例ですね。

インフォームドコンセント【説明と同意】という言葉があるように、素人である患者を不安にさせたり、疑問を抱かせるような医療者は、どれほど技術があっても、専門家としてのスキルが低いと言わざるを得ません。子ども患者でも納得させるのがベテラン医療者であり、間違っても、「医学の知識がないくせに」と言ってはいけないのですよ。モンスターみたいにねじ込んでくる人があったとしても、です。(←それはそれで、別の理由でお引き取り願うのがベター)

ゆえに、専門家が批判された時――たとえ理不尽な言いがかりであっても――どう釈明するかで、だいたいの器が知れます。

相手の無知を理由に論破しようとする人は、どのみち、たいした器ではありません。

【小説の抜粋】 リビルド、リビルドと聞こえはいいが

大洪水で壊滅した干拓地フェールダムの再建案をめぐり、モダンなリゾートタウンに作り替えたい自治体+地元経済界と、昔ながらの干拓地を望む元住民の間で対立が起きる。

これを収める為に、自治体はアイデアコンペを企画するが、リゾートの設計を手掛ける世界的建築家フランシス・メイヤーに敵う者などなく、最初から結果は明白な出来レースであった。

それでもヴァルターとヤンは住民の願いを届ける為、再建コンペに参加し、メイヤーに真っ向から勝負を挑む。

そんな中、メイヤーがフェールダムの視察に訪れ、講演会を開催する。

ヴァルターとヤンは、メイヤーの真意を探る為、講演会に参加するが、メイヤーの言説に元住民を思いやる気持ちは微塵も感じられなかった。

このパートは『第一章・運命と意思』の抜粋です。作品詳細はこちら

そうして九月十五日の第二次審査も通過し、いよいよ最終審査のプレゼンテーションが押し迫る頃、コンペ関係者にとって特筆すべき出来事があった。フランシス・メイヤーがフェールダムの視察に訪れたのだ。

ヴァルターはフランシス・メイヤー個人に興味はないし、実際、どれほど偉い人なのかも分からない。「三大国際建築賞の一つを受賞した」と言われてもピンとこず、「ワールドカップの最優秀選手みたいなもの」という喩えで、やっとその凄さが理解できたほどだ。

だったら、尚のこと、そんな凄い人がフェールダムみたいな地方の再建計画を手がける理由が分からない。こんな田舎に関わらずとも、世界的名声にふさわしい華やかな舞台があるだろうに、「一般参加のコンペ」に素人と名を連ねてまで再建事業に食い込もうとする真意は何なのか。

ヴァルターとヤンはファンデルフェール工科大学でメイヤーの特別講演が開かれると聞き、学生ホールに足を運んだ。

受付でもらったパンフレットに目を通すと、そこには目を見張るような出自とキャリアが列記されている。

フランシス・メイヤーは、オーストラリアを拠点にホテル業やリゾート開発を手がける『メイヤー&パーマー・グループ』の御曹司だ。両親や兄妹はもちろん、叔父叔母、従兄弟、末端の親族に至るまでグループ経営に携わり、縁戚も財界、スポーツ、芸能に至るまで幅広い。創業百二十年、今や世界の観光都市で『メイヤー&パーマー』の看板を見ない場所はない。

その中で、次男のフランシスだけが建築家として花を咲かせ、経営よりもクリエイティブな分野で活躍している。学生時代に海上空港ターミナルビルの国際設計競技に入賞して注目を集め、その後も権威ある建築賞を立て続けに受賞して天才と称された。二十代から三十代にかけて著名な設計事務所『Kool Architects』で研鑽を積んでいたが、四十歳で独立し、個展や講演会、作品集の刊行など幅広く手がけ、ますます盛名を馳せている。今年四十七歳、その野心は止まることを知らず、フェールダム以外にも複数のプロジェクトを抱えて精力的に動き回っている。

やがて学生ホールの演壇にフランシス・メイヤーが姿を現すと、二百名以上の聴講者が一斉に歓声を上げた。

実物のメイヤーは、パンフレットのポートレートより少し老けて見えるが、背はすらりと高く、ほとんど贅肉のない体躯に杢グレーのタートルネックシャツと黒いカジュアルジャケットをスマートに着こなしている。頬骨は高く突き出て、鉤鼻が盛り上がり、お世辞にも美男とは言えないが、SF映画の科学者みたいなテクノカットをプラチナアッシュ(銀灰色)に染め、いかにも天才肌といった風貌だ。大勢の歓声に応え、にこやかな笑みを浮かべているが、ノンフレームの丸眼鏡の向こうで用心深く見開かれた淡緑色の眼は決して笑っていなかった。

プロジェクタの用意が調うと、メイヤーは流ちょうな英語で話し始めた。オーストラリア出身でありながらオーストラリア英語を話さず、意識してイギリス英語を話しているのが耳につく。

メイヤーは自身の手がけた作品を次々にプロジェクタに映しながら、ウォーターフロントにおける美の哲学、未来の展望、建物の安全性などを淀みなく語り、時にジョークを交えながら場を盛り上げる。それは場慣れした人の喋りであり、大衆の好みを知り尽くした見事なパフォーマンスだった。

やがて話がフェールダムに及ぶと、彼は聞き耳を立て、その真意を探った。

メイヤーのコンセプトを一言で要約すればrebuild(リビルド)だ。

単純に施設をリニューアルするだけではない、新しい景観と都市機能を通した「社会の再構築」である。

「宇宙の植民地に目を向けてみよう。そこには国もなく、強い民族意識もなく、人々は開発という一つの意思に結ばれ、調和のとれたコミュニティを形成している。君たちに必要なのは、国や人種を越えた『意思共同体』としての新しい社会の構築だ。フェールダムの洪水は悲劇だった。だが、旧き世界が一掃され、まったく新たな社会を構築するチャンスでもある。進歩。革新。創造。君たちはこれらの言葉を錦の御旗のごとく掲げ、果敢に挑戦しようとするが、その多くは旧い価値観の焼き直しに止まっている。《こうあるべき》という観念は根元から壊せ。創造とは疑うところから始まる。フェールダムはそのルーツを断ち切っても、前に進まねばならない時期に来ているのだ」

一部の学生が感嘆の声を上げたが、彼は懐疑的だ。

どれほど社会が進歩しようと、人間は「自分が何ものであるか」に帰着する。生まれ育った土地の文化や歴史、両親から受け継いだ教えや価値観から死ぬまで離れることはない。宇宙の植民地にもアイデンティティの基盤となるものが必ずあるはずだ。

代々受け継がれる文化、母国語、生まれ育った町の歴史、子供時代の共通の思い出、等々。

それらを壊すことは、自身のルーツを断ち切ることでもある。

「社会の再構築」と簡単に言うが、皆の心の基盤を壊してまで刷新すべきとは思わない。揺るぎないから『礎』というのであり、フェールダムの場合、安全で美しい干拓地こそが社会の礎ではないか。 

あまりにメイヤーが「リビルド、リビルド」と連呼するので、彼はとうとう口を挟んだ。 

「必ずしも進歩が最善とは限りませんよ」

ヤンが慌てて彼の脇腹を肘で突っついたが、彼は構わない。

「あなたの言葉は非常に聞こえがいい。だが、それでフェールダムが救われるかといえば、はなはだ疑問です。あなたは本当にここに暮らす人々の気持ちを考えたことがあるのですか」

「ここに暮らす人々? どこに人々が暮らしているのかね。フェールダムは壊滅した。元住民でさえ戻ろうとしないゴーストタウンだ」

「戻ってないのは身体だけです、心は常にこの地に繋がれている」

「だったら、なおさら機能的で活気に溢れた臨海都市が帰郷の求心力になると思わないかね」

「思いませんね。住民が望まぬものを作っても、数年後には回収不能な巨大ゴミになるだけです」

今度こそ本気でヤンが彼の脇腹を突き、演壇の脇に控えていた係員らもぴくりと眉を動かすと、彼の方で席を立った。

「フェールダムをどうしようとあなたの勝手だが、果たしてこの地にあなたのリビルド哲学が根付くでしょうかね。なぜ、数百年の長きにわたって、この干拓地に人々が住み続けたのか、一度じっくり考えて下さい。たとえ臨海都市が建設されても、フェールダムの住民が数百年先まであなたに感謝すると思ったら大間違いですよ」

ヤンはすぐさまヴァルターの後を追い、廊下の端で腕を掴まえると、「馬鹿! メイヤーに喧嘩を売る奴があるか!」と一喝した。

【リファレンス】 オランダの建築 未来の形

オランダの芸術といえば、レンブラント、ゴッホ、フェルメールといった絵画が有名ですが、ロッテルダムの「立方体の家」「Market Hall」、アムステルダムの「ING House」、フローニンゲン美術館など、色彩、形状ともにユニークな建築でも定評があります。

こちらは、ロッテルダムで考案されている、未来のプロジェクト。

未来の家も、ロボットの頭みたいで、面白いですね。

オランダといえば、何と言っても、水上ハウス。
こんなギリギリまで水が迫って、怖くないのかと思いますが、自国の治水技術を信頼してるんでしょうね。

でも、オランダといえば、やはり緑と運河が織りなす、美しい田園風景が魅力です。
モダンと古風が共存する、素敵な国です。

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この作品を書いた人

石田朋子のアバター 石田朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。1998年よりWEB運営。車とパソコンが大好きな水瓶座。普段はぼーっとしたお母さんです。東欧在住。

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