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海洋開発をめぐる建築家との論争より ~巨大建設は本当に社会の救いになるのか

誤って
海と恋の物語
ペネロペ湾では建築家メイヤーとロイヤルボーデン社がタッグを組み、『洋上のヴェニス』と称される円環の海上都市の建設計画を推し進めていた。メイヤーと対峙したヴァルターはわだかまりを水に長そうとするが、故郷の再建計画をめぐって恨みが再燃する。
目次

【社会コラム】 意見を伝えるにもスキルが必要

いつの時代も、大型商業施設の建設計画はエキサイティングなものです。

周囲の思惑がどうあれ、建設されたエリアには、雇用が生まれ、娯楽やサービスが生まれ、ますます人が集まって、町も活気づきます。

環境汚染や騒音など、幾多の問題が生じても、大型施設を建設して、人と消費を呼び込むことが、自治体のカンフル剤になるのは間違いありません。もっとも、狙い通りに当たれば……の話ですが。

本作では、大洪水で壊滅的な被害を受けたフェールダム(干拓地)の再建計画をめぐって、世界的な建築家フランシス・メイヤーと、洪水で土木技師の父を亡くしたヴァルターが、再建の方向性をめぐって真っ向から対決します。モダンな商業施設が干拓地の復興に繋がると主張するメイヤーと、昔ながらの緑の干拓地を再建し、豊かな土地こそが住民の暮らしの基盤になると信じて疑わないヴァルターの間に、接点はありません。

再建コンペではメイヤーが圧倒的に勝利し、ヴァルターと復興ボランティアの仲間が提案した『緑の堤防』のプランは葬り去られます。

ヴァルターは意匠盗用の疑いをかけられ、ボランティア仲間にも見放されて、故郷に居られなくなります。

その痛い出来事が、直情径行のヴァルターに知恵と忍耐力を授け、次第に「意見の述べ方」を学ぶのです。

怒りにまかせて相手に突っかかり、「ああだ、こうだ」と一方的に自分の意見を述べるだけでは、相手の恨みを買うだけだし、世論を味方につけることは出来ないんですね。

怒りや正義感で、頭が煮えている時こそ、冷静に、かつ共感的に、話さないと効果がないのです。

不正を許さない感性も大切ですが、それ以上に大事なのは、「いかに伝えるか」のスキルです。

Novella 文芸コラム
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【小説】 海洋開発をめぐる因縁の対決 ~冷静に、論理的に話す

急ピッチで臨海開発の進むローランド島の内湾に、フランシス・メイヤーが提案する壮麗な海上都市『パラディオン』の建設計画が持ち上がる。

それは庶民の為のアメニティ空間ではなく、富裕層(=権力者層)を呼び込む為の、ゲーテッド・コミュニティであった。

パラディオンが建設され、トリヴィアの富裕層がなだれ込めば、トリヴィアと同じ支配階級が跋扈し、社会構造が再現される。

それは自由公正を求めてアステリア(ローランド島)に移り住んだ人々の希望と未来を打ち砕く計画だった。

新たな仕事を得て、次の一歩を踏み出そうとしていたヴァルターは、計画の中心に居るのがフランシス・メイヤーと知り、見て見ぬ振りで通り過ぎようとするが、講演に訪れたメイヤーと鉢合わせ、切っても切れない因縁を感じる。

このパートは『第三章・海洋情報ネットワーク』の抜粋です。作品詳細はこちら

緋色の絨毯が敷かれた通路はスポットライトで等間隔に照らされ、個々のライトの下には現代美術館のように建築パースや建築写真が展示されている。

その一つ一つを目で追い、イベント会場の入り口に掲げられた大きなポートレートを見た時、彼は「あっ」と声を上げそうになった。

頬骨が突き出た細長い顔に、大きな鉤鼻。

SF映画の科学者みたいに短く切り揃えた硬質な銀髪。

ノンフレームの丸眼鏡の奥に鋭く光る淡緑色の瞳。

顎に手を添え、顎先を突き出すようなポーズは忘れもしない、フランシス・メイヤーだ。

彼は後ずさり、その場を立ち去りかけたが、会場から割れんばかりの拍手が沸き起こると、通路の奥に目を凝らした。多くの人影で姿は見えないが、観衆の笑いを取りながらも、言うべきことはしっかり言い、巧みに弁舌を振るう様子がマイク越しに伝わってくる。

再び拍手が沸き起こり、女性司会者が閉会を告げると、彼は壁際に寄り、人々が退出するのを待った。

スーツ姿のビジネスマン、教養高そうな高齢の夫婦、暇つぶしに立ち寄ったような若い女性など、来場客が目の前をぞろぞろ通り過ぎ、通路の向こうが静まりかえると、彼はそろりと赤いロープのパーティションを越え、イベント会場に足を踏み入れた。

そこは中庭に面した吹き抜けのホールで、さして広くないが、ガラス張りのカーテンウォールから陽光が差し込み、非常に開放感がある。一段高くあつらえた演台にはオーディオセットが並び、イベントで使われた立体プロジェクタもそのまま残されているが、係員の姿は無く、今日の予定は全て終了したようだ。

それにしても、こんな所まで乗り込んで講演会とは……。

怪訝に思いながらホールを見回し、ふと上体を捻った瞬間、演台の向かいの壁に大きく掲げられたCG画に目を見張った。

これがマックスの言っていた海上都市《パラディオン》。

直径七キロメートルの円環状の浮体構造物を幅広の十字型メインブリッジで四つに区画し、完璧なシンメトリーを作り出す。さらに四分割された扇形のスペースにはL字型のサブブリッジを三連に組み合わせ、洋上の都市空間を作り出す。

浮体構造物に作られた建物は、住居もオフィスも公共施設も色彩や形状が統一され、まるで精緻な建築模型を見るようだ。上空から見れば、誰もがそのジオメトリックな美しさに目を奪われるだろう。

斬新なのはデザインだけでない。

ブリッジ間は跳ね橋や連絡船で移動し、住民はヨットやペダルボートを気軽に楽しむことができる。昼間は噴水アートが街を彩り、夜には水際が華やかにライトアップされ、まさに「海のヴェニス」と呼ぶにふさわしい趣向であった。

彼はその華麗な意匠に目を見張り、自身の『リング』など足元にも及ばないと痛感した。

たとえメイヤーが『メイヤー&パーマー・グループ』の御曹司で、桁違いの資本やコネクションに支えられているにしても、それだけで数々の建築賞を総なめにできるものではない。メイヤー自身も卓越した才能の持ち主であるのは疑いようがなく、こんな大人物に真っ向勝負を挑むなど、確かに身の程知らずに違いない。

だが、もう済んだ話だ。

ここに来てまで争う理由はないし、メイヤーがアステリアに何を作ろうと自分には関係のないことだ。何も見なかったことにして、すぐさま立ち去ろうとしたが、演台の向こうから数人の話し声が聞こえてくると、彼は足を止めて様子を窺った。

最初に警備員が姿を現し、続いて秘書のような若い女性と恰幅のいい中年紳士が談笑しながらこちらにやって来る。最後にメイヤーが姿を見せると、彼はその場に固まり、息を呑んだ。

一行はそのままホールを突っ切って中庭に行きかけたが、途中で警備員がCG画の前に突っ立っているヴァルターに気付くと、「君、イベントはもう終わりだよ。ここはまもなく閉館するから、退出してくれたまえ」と声をかけた。

一瞬、メイヤーと目が合い、彼は決まり悪そうに下を向いたが、以前のような激しい感情はなく、むしろ再建コンペを一緒に戦った戦友みたいな懐かしい気持ちさえする。

彼は勇気を出して一歩進み出ると、

「フランシス・メイヤーさん。少しお話しできませんか」

以前とは打って変わって丁寧な口調で話しかけた。

だがメイヤーは眼鏡の奥から彼を睥睨すると、「誰だね、君は」とまったく素っ気ない。

彼は少しプライドを傷つけられながらも、

「ヴァルター・フォーゲルです。フェールダムの再建コンペで『緑の堤防』を提案しました」

と正直に答えた。

すると、たちまちメイヤーの顔付きが険しくなり、

「その件なら結着したはずだ。こんな所まで追いかけてきて、一体、わたしに何の恨みがあるのだ」

と激しい口調で言った。

「失礼は百も承知です。でも、あなたに一言だけ、お伝えしたいことがあるんです。どうか聞いていただけませんか」

「何をだね」

「フェールダムの事です。あなたのデザインが非常に素晴らしいことは理解しています。だけども、住民の願いは……」

「無知な田舎者と話す事などない。ただでさえこっちは大迷惑してるんだ。コンペだけならまだしも、工事現場に横断幕を掲げて大挙して押し寄せるとは、どこまで野卑で恥知らずなんだ」

「荒っぽい手段に出たことは謝ります。ですが、デンボンメルの森はボランティアグループが汗水を流して土壌を整え、植樹した場所です。他にも汚泥を浚い、瓦礫を片付け、政府も誰も見向きもしなかった頃から粉骨して……」

「だから幾千と金のかかった計画を水の泡にし、他人の名誉を汚しても構わないというのかね。植樹は後々、臨海公園に移し替える予定だった。何も根こそぎ燃やして灰にしようという訳じゃない。それを何だ、まるで環境破壊の悪鬼のごとく騒ぎ立て、工事を中断させたばかりか、ジャーナリストまで担ぎ出して、国民ぐるみでデモンストレーションだ。どれだけ多くの企業や関係者に迷惑をかけたか分かっているのか。だが、もういい。これ以上、田舎者と話しても不愉快なだけだ。君らの望み通りになったんだから、満足だろう」

「望み通り?」

「臨海都市計画は廃案になった」

「それじゃ、再建案は……」

「ロイヤルボーデン社のジオグリーンだ。『緑化堤防』と言えば分かるだろう」

彼は信じられないような思いで目を見開いた。

「フェールダムの再建は、ロイヤルボーデン社の主導でジオグリーンと堤防のインプラント補強が行われることになった。君の望み通りだ。おめでとう。いや、残念賞と言うべきか。盗作したのがバレたな。卑劣というなら君の方だよ。他社の意匠をそっくり真似て、よくも自分の作品などとコンペで主張できたものだ」

「……俺は盗んでない」

「だったら、なぜ示談に応じた。やましいことがあるからだろう。なんにせよ、わたしはあの一件から手を引いた。田舎の干拓地がどうなろうと、もはや知ったことではない。関係者に拝み倒されて再建案を提示したのに、田舎の素人集団に環境破壊の親玉みたいに突き上げられて、わたしの方こそいい迷惑だ」

「田舎の素人集団って、どういう意味です?」

「身の程知らずが専門分野に口を挟むなと言ってるんだ」

「専門家でなければ意見してはいけませんか」

「君に何が分かる」

「あなたこそ、フェールダムの何を理解しているというんです? 何百年とかけて水を治める技術で土地を拓いてきた。あれは天から授かったものではなく、ネーデルラントの先人が営々脈々と築き上げてきたものです。ゴールドコーストにホテルを建てるのとは訳が違います」

「だから、普通のやり方では再建は難しいから、人と金が集まる商業地のプランを案出したんだ。わたしが何の考えもなしにデザインしたとでも思っているのか」

「ですが、水と緑で栄えてきた海岸線を埋め立ててまで建設する価値があるのですか」

「いい加減にしたまえ。復興対象地域に勝手に入り込んで掃除や植樹を始めたのはボランティアの方だろう。だいたい、植樹と放牧だけであれほど甚大な被害を受けたエリアを復興できるものかね。君たちはあまりに現実を知らなすぎる」

「数十年もすれば老朽化して、地元のお荷物になるような商業施設に巨額の予算を投じるより、緑化堤防を再建した方がよほど安上がりです。それに、もう一度、同じ規模の豪雨と高潮に見舞われたら、あなたは率先して堤防を守りに行くんですか。あの程度の構造物ならもって百年、その間も莫大な施設の維持費を要します」

「では、緑の堤防なら絶対安全と言い切れるのかね」

「絶対とは言いません。しかしながら、海や河川の状態に合わせて嵩上げし、十分な強度と高さを確保することができます。締切堤防のインプラント補強も同様です。都市の景観を損なうという理由で、ぎりぎりに高さを抑えた防潮壁よりよほど信頼できます」

メイヤーは屈辱に顔半分を歪めながらも、

「ともあれ、わたしにはもはや関係のないことだ。牛を飼おうが、苗木を植えようが、君たちの好きにすればいい。あいにく、堤防に命を懸けるような正義感は持ち合わせてないのでね」

「――俺の父親を侮辱するな」

「侮辱など。褒めてるんだよ。我々、凡人には到底真似できない……」

彼は思わず拳を振り上げそうになったが、警備員が割り入った。

「今度は暴行罪で訴えられたいか」

「……」 

「君が何を主張しようと、盗人は盗人だ、盗人の言い分に正義などあろうはずがない。二度恥をかきたくなければ、身の程を知って、おとなしくしていることだ。失礼」

メイヤーは足早に彼の前を横切ると、パラディオンが高々と掲げられた通路の方へ歩いて行った。

【リファレンス】 未来のインフラ危機

サイト『数十年もすれば老朽化する商業施設に巨額の予算を投じるより』のリファレンスと重複しますが、下記のサイトにあるように、未来のインフラ危機も非常に重要な社会問題の一つです。

橋梁、トンネル、護岸、高速道路、電線、上下水道、等々。

現在、皆さんが「便利だなあ」と使っているインフラの多くは、昭和の時代の遺産であって、当時、設計を手掛けた人もなければ、施工管理を手掛けた人も今の現場にはなく、まして、当時はコンピュータやデータサーバーなどというものは存在しませんでしたから、多くの資料が”紙”のまま(設計図や配管図など、重要なものはデジタルデータ化されているかもしれませんが)、いざ、補修や拡張が必要になった時、施工時期から余りにも時が隔たっているが為に、何がどうなってるのか、現状把握すらままならない状況に陥ることも有り得ません。

土木にしても、何にしても、最先端の知識と技術さえあれば、何でもすいすい解決するというものではなく、確かに、ゼロから何かを建設するには有為ですけど、既存のものに手を加えるとなると、まったく違うノウハウが必要になってくるわけですね。

【インフラ再考】迫りくる崩壊(1)老朽化「いずれ橋は落ちる」20年後、7割が建設50年超 (産経新聞)

 26年4月、国交省の社会資本整備審議会道路分科会で「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」がとりまとめられた。「最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵(かじ)を切れ」との副題がついたこの提言の前文にはこうある。
 「今や、危機のレベルは高進し、危険水域に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…そのような事態はいつ起こっても不思議ではない」
 戦後から高度成長期にかけて多くの整備が進んだ道路や橋、トンネル、上下水道。それらのインフラが耐用年数の目安である50年を経過しつつある今、かつて米国で起きた落橋事故も現実味を帯びる。もし、同様の重大事故が発生すれば一体誰が責任を負うのか。

インフラだけではありません。

私もバブル時代を謳歌した世代なので、当時のことをよく記憶していますが、劇場や市民会館、テーマパークやファッションビルなど、ハコモノもたくさん作られ、どこからこんなお金が湧いてくるのかと不思議に思うほどの勢いでした。

しかし、その多くが閉園を余儀なくされたり、まったく別の施設に改装されたり、長続きしているハコモノの方が少ないのではないかと思います。一時期、人気をさらっても、施設が老朽化したり、演出が陳腐だと、あっという間に客足も遠のきますし、まして現代のように、家族で出掛ける機会も減り、皆が懐具合を気にして近場で済ますような状態では、かろうじて維持できている施設も先が見えています。

で、娯楽施設なら、建て替えたり、売却したり、他にいくらでも潰しがききますが、トンネルや橋梁、堤防や高速道路となれば、そう簡単にいきません。この橋、古くて危ないから、永久に取り去りましょうね……なんてことになったら、橋に物流などを支えられている町や村は壊滅です。たとえ一日に数十台しか車の行き来しない、田舎の、小川の、長さ数メートルほどのコンクリート橋でも、無くなったら大変な不便で、救急車が十数㎞先の橋まで迂回しなければならないとか、足腰の弱った高齢者が隣町のスーパーや病院に行けなくなるとか、様々な問題が噴出するでしょう。

たとえ修繕の経費は比較的微少でも、工事を請け負う業者がなければ、何ヶ月も何年も待たされるし、そこら中で同様の問題が頻発すれば、必ず後回しにされる場所が出てきます。その間、人々は不便に耐え、不安な気持ちで暮らさなければなりません。

そもそも、修繕の財源はあるのか、人手は足りるのか、現在の日本の経済状態や人口構成から鑑みるに、近い将来、インフラの老朽化をめぐって、大変な事態になるのではないか……というのが、一連の問題提起の主旨です。

それがどれくらい深刻か、地震や台風といった自然災害の被害は言うまでもありませんが、この現代において、物流および水・電気といったインフラがストップするというのは、決して大袈裟でなく、人命にかかわる問題です。健康な人なら、二、三日、水とパンだけで生きることもできますが、乳児や、医療の延命装置に頼っている場合はそうはいきません。私も阪神大震災の時、病院勤務していたので、病棟で停電や断水が発生する恐ろしさは身にしみて知っているつもりです。

また、日本全国、配送トラックで走り回っている人なら、老朽化した橋やトンネルの恐ろしさを実感していると思います。

皆、完成当時は、すごいすごいと歓喜しますが、どんな立派な建築物もいつかは老朽化するし、とりわけ日本は高温多湿で、海に囲まれ、建築物にとっては過酷な環境です。日本の土木建築の技術が世界水準まで到達したのも、過酷な自然環境ゆえなのですよ。東欧などは、地震もなければ、台風も来ない、その辺の平地に体育館みたいなハイパーマーケットを建てても全然OKな土地柄では、耐震技術も防食も発達のしようがないですから(厳冬対策はさすがに凄いが)。

真新しい建築物は誰にとってもワクワクしますし、明るい未来を予感させます。しかし、老朽化した時のことを考えれば、そうそう手放しに喜べないこともあるはずです。そして、その負の遺産は、新しい建築を楽しんだ世代ではなく、その後に背負わされます。

たとえ専門的なことは分からなくても、そうした危機を理解することは非常に大事です。

何故って、何も考えずに業者にお任せしていたら、取り返しのつかないものだけが残るからです。

業者も自らが生き残る為に、何十年、何百年先の公益より、目の前の利益を優先するでしょう。

それが合致すれば一番理想的ですが、物事はそう単純ではありません。

しかし、社会の目が厳しくなれば、あるべき姿に近づいていくのではないでしょうか。

老朽化の現状・老朽化対策の課題 国土交通省

危機には技術で応戦。日本にはまだまだ技術力がありますから、乗り越えて欲しいですよね。

インフラ危機を乗り越えろ 社会インフラ再生にICTを活かす NTT

老朽化によるインフラ危機を救う!金属疲労き裂の治癒技術を徹底解剖
早稲田大学 理工学術院 材料力学・材料強度学研究グループ准教授 細井厚志

補足: 京都の町並みと土木の大切さ

補足になりますが・・・

私がそれを実感したのは、故郷である京都の町中――昔ながらの小さな木造家屋が建ち並ぶ、下京から中京のあたりが、手の付けられない状態になっているからです。

四条通や五条通のような、大通りに面した場所であれば、建設用の重機を持ちこんで、あれもこれも出来ますが、京都の旧い町中というのは、幅一メートルぐらいの路地に、小さな木造家屋が密集していたりして、とてもじゃないけど、大型の重機やトラックは立ち入ることはできません。駐車しようにも、幅2~3メートルほどしかない道路が碁盤の目に配されているので、ちょっとしたミニバンでも、駐車すれば、道一本、ブロックしてしまうことになるんですね。

今はただでさえ観光ラッシュで、公共の交通機関がパンク寸前になっています。

その上に、大型重機や作業車両が長期間にわたって道路を塞げば、区民も相当なストレスになりますし、そもそも駐車する場所がない……というのが、最大のネックになっている箇所もあります。老朽化が進んで、取り壊したくても、作業用車両が入れない、停められないで、放置する以外にないような状態です。

じゃあ、リフォームすればいいじゃないか……と思うかもしれませんが、若い技師さんの中には、昭和初期からあるような、古い町家の扱いが分からない人もあるそうです。最先端のツーバイフォー工法には強いけれども、狭い玄関に通り土間、細長い間取りに低い天井、どこをどう改装すればいいのか。そこはやはり慣れた人でないと分からない部分がたくさんあります。

しかし、昔ながらの知識やノウハウを持っている人が、だんだん失われていけば、「何ヶ月も修理を待たされる」「空き家の増加」「住民が離れる」等々、いろんな弊害が出てくるわけですね。

暮らしにしても、産業にしても、頑丈な住まいや橋梁やトンネルがあって、初めて成り立つものであって、水道の蛇口をひねれば、きれいな上水がジャージャー出てくる環境は、決して、社会が永久に保証してくれるものではありません。ブレードランナーみたいに機械人間が道路工事をしてくれるわけでもないです。知識や技術が発達しても、最後は人の手に頼らないといけない。それが有るか無いかが、国家の命運を分けるといっても過言ではないです。それでなくても、地震や水害の多い所ですから。

そんなん、あんたに言われんでも、わかっとるわい! と思うかもしれませんけど、インフラが破壊される恐ろしさは、経験した人でないと分かりません。何も知らない人が、頭で想像する以上の、大打撃を受けます。私は阪神大震災でそれを味わって、今でもトラウマになってるほどですから、たとえ三日間でも、水道が止まる、エレベーターが止まる、電車やバスがいつものように使えない……となれば、体力的にも精神的にも恐ろしく消耗するものです。それまで便利に暮らしてきた人ほど、尚更です。

そして、今後は、災害でなくても、自然な老朽化や人手不足により、それと同じような問題が起きるかもしれない。

時間的なカウントダウンは、もう始まっている……というのが、上記の記事の主旨です。

じゃあ、どうすればいいの……という答えは、認識だけでも持つことです。

それがどれほど大事な仕事か、子供に語って聞かせるのもいいし、周りにそうした仕事に携わっている人があるなら、敬意を払って、お手伝いするだけでもいい。

皆が皆、つるはし担いで、土建屋になれ、という話ではなく、一人一人が認識を持つだけでも、いざという時の協力や冷静さが違うんですね。

本作は、海洋科学をテーマにしていますが、私の心の真ん中にあるのは、オランダ・ゼーラント州の州章『Lactor et Emerge(私は闘い、水の中から立ち上がる)』と、《God schiep de Aarde, maar de Nederlanders schiepen Nederland(世界は神が創り給うたが、ネーデルラントはネーデルラント人が作った)》の精神です。

最後まで読めば分かると思いますが、一番描きたかったのは、土木と治水なんですよ。そうは見えませんけど。

まあ、そこまで読むのは面倒くさいという人の為に、ここに記しておきますが、土木は国家の礎、今若い皆さんが享受しておられる便利なインフラの大半は昭和の遺産です。21世紀、グローバル社会に移り変わって、急成長を遂げたかつての後進国が、最新の鉄道、最新の空港、最新の通信網、最新の高速道路を有して、どんどん追い上げてくるのに対して、こちらは老朽化する一方の旧い施設で対処しなければならない……という事態にもなってきます。

その上で、自分たちが何を為すべきかについて一考して頂けたらいいなと思います。

Kindle Unlimited (読み放題)

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この記事を書いた人

家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。科学番組の全盛期に子供時代を過ごした影響でSFを書いています。モットーは『Newtonから月刊ムー』まで。かつて宇宙を夢見た少女は深海に魅せられて海洋科学の転向しました。今でもハヤブサより、しんかい派です。

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