PDFの無料サンプル(上巻・下巻) 試し読みする

水中無人機の接続作業 集鉱機と揚鉱管 ストレインセンサーの取り付け

海と恋の物語
水深3000メートルの海底から稀少金属ニムロディウムを含む海台クラストを採掘する為の採鉱システムの接続作業が始まった。ヴァルターは潜水艇プロテウスから小型無人機をランチャーし、高電圧リアクター、揚鉱管、集鉱機を繋いでいく。実際のROVによる水中作業の模様などを動画で紹介しています。
目次

【科学コラム】 深海での水中作業、誰がどんな風に接続するのか

世界には、石油リグ、掘削船、海洋調査船、等々、何百、何千という海洋施設が稼働していますが、水深数百メートルから数千メートルに及ぶ深海では、どのようにパイプの手入れをしたり、機材と機材を組み立てたり、設備の点検などを行っているのでしょう。

これは長い間、私の中で謎でしたが、21世紀、YouTubeの登場で、おおよそは理解できました。

こんな小さな無人機で、ネジを締めたり、配電盤のスイッチを入れたり、センサーを取り付けたり、できるんだな、と。

馴れた人なら、数百メートル、数千メートルの海底下にある無人機のマニピュレータのグリッパも、自分の手先みたいに感じるのかもしれません。

それって、RPGで、自分のアバターを現し身のように操作する感覚でしょうか。

ともあれ、針の穴に糸を通すのも難儀する私には真似できそうにありません。

惜しむらくは、日本には石油リグのようなものが存在せず、水中工学のエンジニアや無人機のオペレーターに対する需要が海外に比べて低め、という点でしょうか。水深数千メートルを調査できる素晴らしい技術があるのに、勿体ない話です。その分、海洋土木やインフラの方に流れているのかもしれませんが。

何にせよ、これからますます遠隔操作やロボットの技術が進歩して、海洋=宇宙の間で技術交換が活発化するかもしれません。

私としては、月や火星に行くより、もっと深海に行って欲しいですが。

ちなみに本作に登場する海底鉱物資源の採鉱プラットフォームのモデルについては、実際に開発中の『Nautilus Minerals』を参考にしています。

【小説の概要】 無人機による水中作業

いよいよ水深3000メートルの海底から、稀少金属ニムロディウムを含む海台クラストの本採鉱が始まった。

採鉱システムの揚鉱管、高電圧リアクター、集鉱機を繋ぐ接続ミッションで、ヴァルターは潜水艇プロテウスから小型無人機をランチャーし、水中作業を進める。(潜水艇から小型無人機をランチャーするアイデアはジェームズ・キャメロンの映画『タイタニック』から拝借しています。タイタニックでは、アメリカの有人潜水艇アルヴィン号が実際に使用されています。ちなみに日本の『しんかい』にはランチャーする機能は無いとのこと。その代わり可愛いバスケットと高機能ハイビジョンカメラがついてます♪)

このパートは『第二章・採鉱プラットフォーム』の抜粋です。作品詳細はこちら

リズはルサルカから伝送されてくる水中カメラの映像を見つめ、プロテウスの映像を探すが、LEDライトに照らされる深海は気味が悪いほど真っ暗で、雪のようなもの以外、何も見当たらない。こんな視界不良の中で、事前の訓練も無しに、機械と機械を繋ぎ合わせることなどできるのか。テスト潜航の必要性を再三訴えたにもかかわらず、予算と手間を理油に一蹴され、おまけに頼りない大学生のアシスタントを押しつけられて、それでもプロの矜持から引き受けた彼のプレッシャーを思うと、同情を通り越して、怒りすら湧いてくる。今もどんなにか不安だろうに、ここで幸運を祈るしかできないなんて……たとえ自分が運命の女神でも、神の公正さなどかなぐり捨てて、全力で彼に味方するに違いない。

潜航開始から四十分が過ぎ、ガーフィールドが状況を伝える為にカンファレンステーブルの方にやって来ると、「よかったら、ミッションの段取りについて簡単に教えていただけませんか」と声をかけた。

ガーフィールドは得意げに彼女の隣に腰掛けると、 

「我々が接続ミッションと呼んでいるプロセスは三段階あります。最初に集鉱機に揚鉱管のフレキシブルホースを取り付ける作業。次に水中リフトポンプと揚鉱管の接続部に歪みセンサーを取り付ける作業。最後に高電圧リアクターの電源をONにします」

「高電圧リアクターですって?」

「あくまでリアクターの電源装置をONにするだけです。採鉱システムの通電は全ての接続作業が完了してから行いますので、海中で感電することはありません」

「潜水艇はどれくらい機械に接近するのです?」

「接続作業は、潜水艇から小型無人機《クアトロ》を発進し、アンビリカブルケーブルを介した遠隔操作で行います。ケーブルの長さは最長二十五メートルですが、対象を目視する為、ぎりぎりまで接近するでしょうね。五メートルか、一〇メートルか。それはパイロット次第です」

「それほど接近すれば、潜水艇が揚鉱管や集鉱機に衝突する可能性もありますね」

「その可能性は決してゼロではありませんが、確率としては非常に低いです。なぜなら、船上で常に互いの座標を確認し、慎重にナビゲートするからです。潜水艇自体にも前方探査ソナーが備わっていて、障害物を検知したら自動的に推進装置が停止したり、危険回避の行動を取るようになっています。揚鉱管や集鉱機に機体が接触するとしたら、むしろ無人機の方が可能性が高いかもしれません」

「だけど、万一、潜水艇が接触したら、感電したり、爆発するのではありませんか?」

「採鉱システムはそれほど柔じゃありません。当然のことながら、悪天候や誤操作による接触事故も計算にいれて安全対策を施しています。たとえば、揚鉱管に接続するフレキシブルホースは金属ではなく、非常に強くて柔軟性に富んだ特殊樹脂で出来ています。万一、無人機が接触しても、多少の衝撃では折れたり曲がったりしません。それにミッションで直接操作する部分はコネクターとコンソールに限られますから、全速で機体に衝突でもしない限り、人命にかかわるような大事故は起きません。というより、現在の技術では人が歩くほどの速度しか出ないんですよ。それより、海上の波力や風力の方がはるかに巨大です。深海で本当に怖いのは、船体の位置を見失ったり、船体がケーブルや複雑な地形などに拘束されて、海底で身動きがとれなくなることです」

「潜水艇に故障が生じて、自力で浮き上がることが出来なければ、どうなりますの?」

「一応、五日間は耐圧殻のライフサポートが機能しますが、それを過ぎると、まあ、どうしょうもないですな。船外から水や食料を差し入れる訳にもいきませんし、体力的には三日が限度でしょう」

「そんな殺生な。中の人を見殺しになさるのですか」

リズが思わず声を高くすると、横からアルが制した。

「落ち着きなさい、エリザベス。彼らは三度のテスト採鉱に成功し、プロテウスの運航も二十年以上、無事故でやってきた。皆を信用しなさい」

「でも、あんまりだわ! それでは中の人が……」

「お前はパイロットを信用しないのかね? 彼はこれまでに一二〇回潜航して、もっと深い、地形の険しい海底でサンプリングや写真撮影を行ってきた。それに比べれば容易いものだ」

「容易いなんて、どうして言い切れるの?」

「わしもプロテウスの事は知っている。航空機のパイロットも一〇〇〇時間飛行すれば機長レベルだ」

アルが言い切ると、リズも押し黙り、再び不安そうにモニターウォールを見やった。

一時間後。

プロテウスが水深三〇〇〇メートルの目標位置に到達すると、マードックから連絡が入った。

「現在、集鉱機の位置はプロテウスから西に一〇〇メートルほどだ」

「フレキシブルホースの先端は?」 

「集鉱機の前方三メートルだ。ほとんど横並びになっている」

「OK。では、このままもう少し前進する」

程なくプロテウスのメインモニターにフレキシブルホースの先端、集鉱機、プロテウスの位置関係を示す三次元マップが現れた。音響データからリアルタイムで作成されたイメージ画像だ。さらに八〇メートルほど前進すると、右モニターにプロテウスの音響ビデオカメラが捉えた集鉱機のイメージが映し出された。

「集鉱機の背面がかなり左に向いている。もう少し左回りして、背面をこちらに向けてくれないか」

「OK。調整するよ」

オペレーション室の集鉱機オペレーターがアンビリカブルケーブルを通じて海上から遠隔操作すると、集鉱機はのっそり左に旋回し、ポジションを整えた。

だが、前から予測していたように、採鉱区全体が約一〇度傾斜している為、集鉱機も前方が少し持ち上がるような体勢になっている。だが、これ以上、機体を調整しても完全に水平になることはないだろう。 

続いてルサルカを遠隔操作するノエ・ラルーシュから連絡が入り、

「こちらもプロテウスと集鉱機を捉えた。これから接近して投光器を向けるから、それを目標に前進してくれ」

「了解。あと一〇メートル、前に移動する」

そうしてプロテウスが集鉱機の背面から一〇メートル手前まで接近すると、そのほぼ真上にルサルカの強力なLEDライトが見えた。ライ
トが照らし出すわずかな視界に、集鉱機の白い背面と、機体後部に接続されたアンビリカブルケーブルがはっきり目視できる。

ヴァルターはエイドリアンの方に向き、

「今から《クアトロ》を発進させる。俺がコントローラーでプロテウスを集鉱機の左サイドに保持するから、お前の方でクアトロを集鉱機まで接近させろ。集鉱機のアンビリカブルケーブルに絡まないよう、気を付けてな」

「了解」

ヴァルターはエイドリアンと操縦席を変わると、レバーコントローラーと数種類のボタンが付いたコントローラーを持ってカーペットに腰を下ろした。左の覗き窓と操縦席のメインモニターで外の様子を確認しながら集鉱機の左側面に回り込み、集鉱機と同じ高さに位置を保ちながらホバリングする。

エイドリアンはクアトロのコンソールを操作し、プロテウスの前方に取り付けられたランチャーから発進させた。ケーブルに繋がれた四〇センチ四方の無人機が小さなスラスタを回転させながら、そろそろと海中を進んで行くのが見える。

クアトロにはソナートラッキング機能があり、ソナーが捉えた目標物までの距離と方位を自動的に算出して、前進操作だけで目標物に接近することができる。またコンソールを神経質にいじらなくても、機体を常に水平に保ち、同じ深度を維持する自動操縦支援機能も備わっており、その点では「大学生でも出来る」というのは本当だ。

「もう一度、対象物の位置を確認しよう」マードックが呼びかける。

「フレキシブルホースの先端は集鉱機の真上、一〇メートルの位置にある。これから揚鉱管全体を十一メートル下げるから、先端を捉えたら合図してくれ」

タワーデリックから再び揚鉱管がゆっくりと海中に降下され、ちょうど一〇メートル下がった時、「見えました!」とエイドリアンが叫んだ。
クアトロの水中カメラが、フレキシブルホースの先端に取り付けられた直径三〇センチの重錘式コネクターをはっきり捉えている。
管制室で見守るリズも、モニターに銀のコネクターがユラユラ映し出されると、ぎゅっと両手を握りしめた。

「僕も《ルサルカ》のカメラで確認した。集鉱機の接続部に届きそうか」

マードックが呼びかけると、エイドリアンは呼吸を整え、

「やってみます」と小声だが、確かな口調で返事した。

フレキシブルホースは柔軟性に富んだ特殊樹脂で作られ、等間隔でジャバラが施されているため、白と蛍光イエローのまだらのウミヘビのように見える。

直径三〇センチのコネクターはプラグ型、集鉱機の接続口はソケット型になっており、両側の接合パーツが組み合わさると、自動的にロックダウンされる。

エイドリアンはクアトロをもう三メートルほど前に進め、マニピュレータの両側アームをいっぱいに伸ばすと、コネクターの上部に取り付けられたU字型のフックをグリッパでキャッチした。

全長九メートル、幅六メートルの集鉱機はクアトロのカメラに収まりきらないが、何重にも入り組んだ配管やポンプユニット、プロテクト・ケージに守られた油圧装置、大小様々なスイッチと計器が配された配電盤が暗い水の中に浮かび上がって見える。そして、重機の真上には金属フランジの接続口。直径はフレキシブルホースのコネクターより一回り大きい三十六センチだ。

エイドリアンはグリッパでコネクターを把持しながら徐々にクアトロの深度を下げ、両者の距離が五〇センチまで近づいた。

「接続する前に、もう一度接続口を確認しろ。たまに異物や堆積物が被っていることがある」

マードックの指示を受け、ヴァルターもモニターに目を凝らして凹型の接続口を確認するが、特に異常は見られない。

「よし、接合していいぞ」

マードックからGOサインが出ると、エイドリアンはさらにコネクターの先端を近づけ、ゆっくりアームを降ろした。それと同時に向かい合ったフランジが重なり、一見、凹凸が噛み合ったような感じだが、まだ完全に接合していない。

「少し右に回すような感じで、もう一度、ムーブダウンしてみろ」

マードックが助言すると、エイドリアンはコネクターの先端を二〇センチほど持ち上げ、再び接続口に近づけて、少し右に回すような感じで凹部に押し込んだ。

すると接続面が上手く噛み合ったのか、かちりと音を立てるように金属円盤が回転し、コネクターの先端が自動的に一〇センチほど内側に引き込まれた。動作が完了すると、金属フランジのグリーンランプが点灯した。

「いいぞ。接続はOKだ。次にT型ピンを抜いて、安全装置を解除しろ」

T型ピンは大人の拳ほどの大きさで、金属フランジの後方二〇センチほど離れた所に差し込まれている。エイドリアンは再びマニピュレータのアームを伸ばし、T型ピンの頭を掴むと、縦向きに回転し、ピンを抜き取った。

「よし、次はダイヤル式スイッチを『CLOSE』から『OPEN』に回せ」

再びアームを伸ばし、T型ピンの右側にある掌ほどのダイヤルを掴むと、『OPEN』に切り替えた。

「パーフェクトだ、エイドリアン。これで揚鉱管は繋がったぞ」

マードックがねぎらうと、エイドリアンも顔をほころばせた。

【リファレンス】 水中無人機 ROVの作業の実際

無人機(ROV)を使った海中オペレーションの模様です。参考に。

水深3000メートルの海底に到達する『揚鉱管』のイメージはこんな感じです。山より距離的に長いわけですから、技術的にどうよ、という話です。

ストレインセンサーにも色んな種類がありますが、これはあくまで一例として。
水深数十メートルならともかく、数百メートル、数千メートルにもなれば、水圧の破壊力も半端ないですし、鉄パイプは真っ直ぐでも、洋上のプラットフォームと、深海底の重機の位置は必ずズレてきますから、常にポジションを垂直に保ち、なおかつ、パイプの歪みもチェックする、非常に重要なポイントです。
パイプが途中で折れるより先に、洋上のプラットフォームが引きずられて、採鉱システムが激しく損傷する危険性もあるでしょうしね。

ストレインセンサー

ストレインセンサー

ストレインセンサー

無人機 オペレーション

海洋調査でも、石油リグでも、とにかく海中というのは暗い。これは撮影用に横からライトを照らしてますから、まだ明るく見えますが、それでも数メートル先が闇なのは変わりません。加えて、海中の浮遊物(プランクトンや舞い上がった堆積物)も多いですから、視界は非常に悪い。場合によっては、魚が機材に絡んでくることもあります。(それをROVが救出するビデオも見たことがあります)
技術も日々進歩していますので、数十年後にはもっと性能の良いライトやカメラが登場するでしょうけど、それでも「暗闇の作業」は変わらないと思います。

無人機の水中操作

Photo : https://goo.gl/R8Wd9j

海外では女性も洋上プラットフォームで技術者として働いています。一生ものの技能職です。

女性の活躍

Photo : http://www.oceaneering.com/rovs/rov-personnel-and-training/

日本には石油リグは存在しませんから、それを専門とするオペレーション業者もメーカーも注目されませんが(プラットフォームの設計・建造や部品の製造を請け負う会社はあります)、海底油田やガスの採掘が盛んな国では、オペレーティングや関連メーカーが一大産業になっています。

よかったらシェアしてね!

Kindle Unlimited (読み放題)

この作品を書いた人

石田朋子のアバター 石田朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。1998年よりWEB運営。車とパソコンが大好きな水瓶座。普段はぼーっとしたお母さんです。東欧在住。

目次
閉じる