二匹のヤマアラシ ~仲よく寄り添うには、程よい距離が必要~
ヴァルターのことが大好きなリズは、彼のことを思うあまり、一つ一つに心を痛め、かいがいしく世話を焼き、常に彼と行動を共にしようとします。
しかし、彼女の親切心も、彼にとっては、大きな重荷。
その重みに耐えきれず、とうとう喧嘩になってしまいます。
そうなって初めて彼の本音を知ったリズは、彼の言葉に落ち着いて耳を傾け、下記のようなことを悟ります。
自分一人の世界で生きてきて、他人との付き合い方が分からないというなら私も同じ。
『好き』というだけでは駄目なのね。
二匹のヤマアラシみたいに互いの棘で傷つけ合わない、程よい距離が必要なんだわ
-- リズからヴァルターへ。
リズが『二匹のヤマアラシ』のエピソードを知ったのは、父親のアル・マクダエルが娘に送った「四コマ漫画」がきっかけです。
恋人であるヴァルターと上手くいかず、うじうじ落ち込んでいることを知ったアルが「人間関係のコツ」として、哲学者・ショーペンハウアーの『ヤマアラシの寓話』を漫画化したものを送ります。
一コマ目。
お互いに長いトゲを持つ二匹のヤマアラシは、仲よくしたくても寄り添うことができません。
相手に近づけば、長いトゲでお互いに傷つけ合ってしまうからです。
二コマ目。
やがて二匹のヤマアラシは、仲よくすることを諦めて、互いにそっぽを向きます。
三コマ目。
それでも相手と仲よくしたい気持ちは変わりません。
四コマ目。
二匹のヤマアラシは、互いに傷つけ合わない適度な距離を見出し、やっと仲よく寄り添うことができる、というストーリーです。
人間という言葉は「人の間」と表すように、どんな人間関係にも程よい距離は必要です。
好き好きと自分のエゴを押しつけても、相手には負担になるだけ。
仲好し=べったりするではないんですね。
こうした距離感は、頭でどれほど考えても分かるものではないです。
すれ違い、言い争い、様々な試行錯誤を経て、ようやく相手との間に見出すものです。
ある意味、愛というのは、お互いが心地よい距離感を見出す為のプロセスなのかもしれません。
彼を失うまい、嫌われるまいと、必死にしがみついていたリズですが、とことん我をぶつけ合って、やっと無理のない距離感を掴みます。
もちろん、こうした言い争いができるのも、根底に信頼関係があってこそ。
『距離感』というのは、自分の欲求よりも相手を尊重する気持ちなのかもしれません。