【心のコラム】 転ぶから痛いのではない。転んだ所を人に笑われるから痛いのだ
中谷彰宏さんの著書にこんな言葉があります。(出典は忘れました)
『転ぶから痛いのではない。転んだ所を人に笑われるから痛いのだ』。
これは本当にその通りで、失敗を恐れて、何も出来ない人は、失敗することが辛いのではなく、失敗を人に笑われるのが怖いんですね。
特に昨今は、SNSが日常化して、人間関係だけでなく、失敗も可視化されるので、余計で萎縮してしまう人もあるでしょう。
頑張ってサービスやコンテンツを立ち上げたけども、全然、人が集まらなくて、恥だけかいて終わり……となれば、末代まで笑われそうな気持ちになりますからね。
それでも、やるか、やらないかの差は大きいし、失敗しても、せいぜい自分一人が恥をかくだけなら、思い切ってやればいいのです。
大勢の人を巻き込んだり、何千万も借金を抱え込むような事案なら別ですが、自分のプライドが傷つくだけなら、大した痛みにはなりません。
一年もすれば、心の痛手も癒えて、また次の挑戦に取りかかることもできるでしょう。
体面や評判にこだわりさえしなければ、道はいくらでも開けるし、むしろ失敗をすることで、人間としての知恵や器量が広がるところもあります。
どのみち、一人の人間が出来ることなど、たかが知れてますし、何でも上を見れば、きりがありません。
それよりも、行動第一。何かあっても取り返しのつく程度にチャレンジしたらいいと思います。
何が起ころうと、人生の最後に残るのは、自分が行動した思い出だけです。
何もしなければ、たとえ失うものはなくても、何の為に生きているのか分からない、虚しさしか残らないと思います。
【小説】 失敗しても、己のプライドが傷つくだけ
だんだん、自分一人が空回りしているような虚しさを覚えるヴァルターに、上司であるアル・マクダエルは、社会に問題提起すること自体に価値があると諭し、「失敗しても、せいぜい己のプライドが傷つくだけだろう」と励まします。
アルはブランデーを飲み干すと、「仕事の話をしよう」と話題を切り替えた。
書斎机の上に置いていた一綴りの書類を手渡すと、
「産業省に提出する企画提案書だ。十二月十五日までに必要事項を記入して、メイファン女史に提出しろ」
「でも、俺にはその資格が……」
「連名であれば問題ない。代表者名はメイファン女史が肩代わりしてくれる」
「でも、部長としての立場は?」
「企画を提案するのに役職は関係ない。必要なのは代表者が市民権を持っているということだ。超党的なワーキンググループとして意思や要望を表明するのに何の問題もない」
「ワーキンググループ?」
「そう、メンバーはお前とメイファン女史の二人だ」
「でも、二人だけのワーキンググループなんて通用するのかい?」
「人数や構成員は関係ない。百人の有志を集めたからといって、必ずしも企画が通るわけではないのと同じだ」
「それはそうだが……」
「今、採択されるかどうかは重要ではない。まずは企画をしっかり練ること、次に必要性を説くことだ。わしも採鉱プラットフォームの構想はダナと二人で始めた。わしが大学生の頃だ。アイデアを紙に書き出す段階では途方もない事に思えた。だが現実になっただろう。『緑の堤防』はどうだ? 百人がかりで設計したか?」
「いや」
「いいか、どんな時も決して忘れるな。資本だ、設備だといっても、突き詰めれば『人』だ。設計するのも人なら、機械を動かすのも人。経理を手がけるのも人なら、営業に回るのも人だ。人を見誤れば、数十年かけて築いた信用も一夜で崩れ去る。だが優れた人材を得れば、百万の資本も倍以上になる。全ては人だ。人間の良し悪しが全てを決める」
「それは分かるよ」
「海洋情報ネットワークも同じだ。最終的に決め手になるのは、誰が協賛し、実質的に動いてくれるかによる。
いくら金と権力があっても、自分の得にならぬと分かれば指一本動かさない人間の歓心を得たところで何の益にもならない。
逆にメイファン女史のように強い立場になくとも、自分の出来る範囲で精一杯働きかけてくれる人の協力を得た方がどれほどチャンスに恵まれるかしれない。
資本もない、コネもないなら、人を動かせ。
明確で具体的なビジョン、多くが共感する指針を示せば、必ず賛同者が現れる。
良いパートナーを得れば、百人の優秀な部下を得たも同然だ。
いろいろ働きかける中で資金や手段を得る術も見えてくる。
お前の強みはその声だ。人が思わず足を止め、聞き入るような響きがある。
弁も明快で分かりやすい。
同じ理屈を説いても、お前が言うのと、他の誰かが口にするのでは説得力が違う。
それが人間としての魅力であり、才能だ。
誰もが真似できることではない」
「だが、海洋情報ネットワークは『緑の堤防』とは違う。共感だけ得ても、具体的に予算や法律が動かなければ、到底構築はできない」
「まあ、そう難しく考えるな。これほど大がかりなプロジェクトを一年二年で実現するなど、わしでも不可能だ。
だが、海洋情報に限って言えば、メイファン女史のように漠然と疑問を抱きながらも行動に移せない人は少なくない。
区政も産業も、あらゆる物事が過渡期に差し掛かっている今、海洋情報ネットワークのような公益性の強いプランを打ち出すだけでも価値がある。
お前の構想は、突き詰めれば『統合』であり『連帯』だろう。めいめいが好き勝手な方を向いて利益追求に走ろうとしている中、それが大きなアンチテーゼとして働くんだ。実現するか否かは二の次でいい。まずは自身の構想を一人でも多くの人に理解してもらえ。
一つ一つ、駒を進めるうちに、思いがけない局面が開けることもある。そこから先は運に任せるぐらいの気持ちでおれば、自分自身を追い詰めることもない」
「確かに、構想が成らなくても、誰が損するわけでもないからね」
「そうだ、せいぜいお前のプライドが傷つく程度だ。だが、それがどうした。数十億の設備投資を回収する苦労を思えば易いものだ」
「ともかく出来るところまでやってみるよ。こんな事、よその職場では決して無理だし、何か損するわけでもないからね」
「そうだ。考えて、考えて、考え抜いて、目の前の海が求めるものを見つけ出せ。お前なら、きっとその答えに気が付くはずだ」