【コラム】 パイロットあっての深海調査

海洋調査といえば、もちろん、研究者の世界であり、世界的な発見を成し遂げるのも、新しい理論を立ち上げるのも、学者の功績です。

しかし、彼ら研究者を現場に送り出すのは、調査船のクルーであり、潜水艇のパイロットであり、整備士であり、一度の海洋調査に携わる人の数は計り知れません。

こうした後方支援の内助はなかなかスポットライトを浴びませんが、自らの航海が海洋科学の発展を支えているという矜持は一人一人の中にあると思います。

たとえ科学雑誌に名前が載らなくても、あの時、あの場に居た手応えは、一生心に残るのではないでしょうか。

【小説の抜粋】 深海調査と潜水艇パイロットの使命 ~たとえ名前は知られなくても

【リファレンス】 潜水艇のパイロットについて

「潜水艇のパイロット」と言うと、「操船する人」というイメージがありますが、無事故で潜航するのはもちろん、「何かありそうな場所に確実に誘導する」「最良の状態でサンプルを採取して持ち帰る」「同行者(研究者)の命を預かる<リラックス・緊急時の対処>」、研究とケアの両面からサポートしなければならず、非常に重要な仕事です。

確かに、科学的な発見やデータ分析は研究者の仕事ですが、研究者は実際に深海に行ったわけではありませんし、頭の中でイメージする深海と、実際に深海を潜航することは、似て非なるものです。

喩えるなら、一度も遠洋漁業を経験したことのない造船設計士と、トータルの操業時間が1000時間を超えるマグロ漁船の漁師では、問題の捉え方も、海の見方も全く異なります。

造船設計士が、理屈で漁船がどういうものか知っていても、実際に遠洋で操船するとなれば、全く違うスキルとセンスを要求されるわけですよ。

潜水艇の深海調査もそれと同じです。

海洋学者なら、どういう場所に熱水噴出孔があって、どんな熱水が湧き出しているのか、水温は、成分は、生物はいるのか、データを見れば、何でも分かります。

しかし、海の上から潜水艇を降下して、真っ暗な深海の中、確実にその場所に辿り着けるかとなれば、これはまったく別問題ですし、学者自身がマニピュレータを使って、堆積物や熱水の採取(サンプリング)が出来るわけではありません。

そこはやはり経験と勘、独自の知識が必要で、命じられた通りに操船するのが潜水艇のパイロットの仕事ではないんですね。

一般には、学者先生 >>> パイロット みたいなイメージかもしれませんが、この仕事に上も下もありません。

私がお会いした深海研究の第一人者である先生は、潜水艇のパイロットはもちろん、支援船の乗務員、整備や後方支援のスタッフに至るまで、とても感謝しておられました。

世の流れは無人化に向かっていますが、有人調査の需要が皆無になることはないと思います。

興味のある方は、船舶工学を学んで、狭き門を目指して下さい。

【リファレンス】 潜水艇のミッション

こちらは海洋開発研究機構(JAMSTEC)の『しんかい6500』のミッションを紹介するビデオ。
世界中の深海調査で活躍しています。

JAMSTECが制作する『しんかい6500』の紹介ビデオ。

こちらはタイタニック号の探索にも活躍したアメリカのAlvin号のビデオです。整備や海中の様子などを紹介。

潜水艇の乗船やコクピットの様子などを紹介。

深海で乗組員の命を守る耐圧殻の製造過程や海中降下の様子が紹介されています。

ウォールの画像:Ifremer environnement -Nautile-

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この記事を書いた人

石田朋子

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。科学番組の全盛期に子供時代を過ごした影響でSFを書いています。モットーは『Newtonから月刊ムー』まで。文芸とサイエンスを融合した新しいスタイルの作品を手掛けています。

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